『ウォーフェア 戦地最前線』の戦況・現場を解説
1月16日より絶賛上映中の『ウォーフェア 戦地最前線』より、ミリタリー識者/ライターの土居克臣さんにインタビューを実施!
本作の舞台となるイラク戦争下の背景や隊員の構成、銃器や装備について解説いただきました。
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土居 克臣(ミリタリー識者/ライター)
本作は、イラク戦争帰還兵であるレイ・メンドーサ監督と当時共に闘った兵士たちの、「戦争を分かった気分になってほしくない」「観客の方にはリアルなものを見てほしい」という、切なる願いから生まれた作品である。母国に対して、自分たちを従軍させた政治家や各国の方たちにも見てもらい、母国アメリカが若者に何を課してきたのか報道されない真実を突きつけ、従軍する兵士たちへの責任を感じてもらいたい という強烈なメッセージを放つ。
Q1.イラク戦争とは――
2003年にアメリカのジュニア・ブッシュ政権が、イラクに大量破壊兵器があるという主張から、アメリカを中心としてイギリスやオーストラリアによる有志連合によって、イラクのフセイン政権を打倒した戦争。国際連合の合意がないままにアメリカとイギリスによる空爆と侵攻によって始まり、首都バクダッドは陥落、フセイン大統領は逃走の末に捕縛された。この間、約1年だったが、その後の2006年12月にフセイン大統領の死刑判決が下され、即座に執行された。
この同時期に、アルカイダ系武装勢力が支配するイラク西部の都市ラマディを制圧するために、アメリカ海兵隊を中心としたアメリカ軍が作戦を実行。町全体を戦場として、壮絶な市街地戦が繰り広げられた。
Q2.映画で描かれる2006年11月頃のミッションとは――
バグダットの西に位置する大都市ラマディは、イラク・アルカイダを主力とするイスラム過激武装勢力の拠点となっていた。
2003年からのイラク侵攻時、アメリカ軍とアルカイダなどテロ組織との戦いの中で、2006年にイラク国内での掃討作戦を実施。前年の「ファルージャの戦い」でアメリカ軍が航空機と車両(戦車)による派手な銃弾爆撃で市街地を破壊し、かなりの死傷者が出た為、(今回の映画で描かれた)ラマディの市街戦では地道に侵攻する作戦に変更した。
しかしながら、アルカイダ系過激派は地の利を生かし、隠れながら米兵を狙撃するヒット&アウェイ戦法(建物からライフルやRPGを発射すると同時に、隠れてしまう“盲撃ち戦法”)で抵抗。アメリカ軍を見つける度に手当たり次第に攻撃を続け、映画にも登場する即席爆弾IEDが多数仕掛けられた。
対してアメリカ軍はサーチ&デストロイ、つまり民間人なのか敵なのかを見分けてから捕縛・排除する作戦に切り替えていた時期だった。
監督が描いたあの日、2006年11月19日は、その一連の作戦の1つで、アルカイダの動きを監視・狙撃する任務を与えられていた。海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)であった監督らは、あえて陸軍の迷彩服を着用し、紋章等役割のわかるバッジを外して、身分を隠しながら現地に潜伏していた。

Q3:映画に登場する用語について
敵兵に無線を傍受される可能性もあるため、チーム名を暗号化して呼んでいる。
・アルファ1とアルファ2=小隊の分隊。
・ブッシュマスター=アルファチームを救出に来た第26歩兵連隊第1大隊ブラボー中隊のニックネーム。
Q4:イラク戦争映画に多様される、空撮の映像
遠隔操縦航空機MQ-1プレデター(UAV:無人機)からの偵察映像。
上空からの熱探知で、人物や車両の動きを把握し、地上部隊に報告していた。
上空からでは敵味方の識別が不可能なので、地上部隊の位置情報を元に、その情報を共有していた。
Q5:部隊の構成について(通信兵、指揮官、下士役指揮官、狙撃兵、衛生兵、航空支援部隊)
部隊の構成は、アルカイダの動きを監視・狙撃する任務に応じて編成された構成である。少数で活動をする特殊部隊の小隊であるため、兼任している隊員が多いのも特徴的。
指揮官/指揮役下士官/通信兵/狙撃兵 兼 衛生兵/狙撃手/機関銃手/火力支援 兼 航空支援(2名)加えて、イラク人通訳が2名帯同していた。

Q6:銃撃戦の音、使用されている銃器について
銃撃シーンでは、敵味方が使う銃器によって発する音が違い、壁や道路に当たった弾の音なども被弾した素材に応じて音が変化している。
アルファワン小隊のシールズ隊員と海兵隊隊員がそれぞれ使用しているM4A1カービンは、セミオート(単発発射)による連続して引き金を引いて撃っている『タン・タン・タン』と比較的高めの音が特徴の5.56×45mm NATO弾を使用するアサルトライフルだ。各部にアクセサリー装着用のレールがあり、使用者個人が光学機器やライトなどを装着できるため劇中でも隊員によって違う仕様になっている。アルファ小隊の一部のシールズ隊員が使っているMk 18 Mod 0 CQBRは、市街地戦闘や室内のような狭い場所での取り回しを考えてM4A1カービンの銃身を短くしたモデルだ。M4A1カービンよりバレルが短い違いを表現するために発射音の高さが違っている。各種アクセサリーが装着できるのはM4A1カービンと同じである。
シールズのスナイパーが使っているSR-25は、高品質銃器メーカーのナイツ・アーマメントが開発した7.62×51mm NATO弾を使用するセミオートスナイパーライフルだ。M4A1カービンと同じ操作方法で扱うことができ、ボルトアクションスナイパーライフルの手動式装填と排莢とは異なり、アサルトライフル並みの自動装填と排莢で複数の標的を撃つことができる。映画『アメリカン・スナイパー』で有名になったシールズスナイパーのクリス・カイルもイラク戦争で同行する海兵隊隊員のサポートする際にはSR-25を使っていた。
シールズ隊員が使う機関銃は、5.56×45mm NATO弾をベルト給弾する機関銃Mk 46 Mod 0とMk 46 Mod 0の7.62×51mm NATO弾仕様の機関銃Mk 48 Mod 0である。どちらも短い間隔で規則的に『タ・タ・タ・タン』という発射音がするが、小口径高速弾である5.56×45mm NATO弾は高めの音で、小銃弾である7.62×51mm NATO弾は低めの音になっている。
イラク陸軍兵士と過激派が使う武器はAKMである。『トン・トン・トン』という低めの発射音が特徴の7.62×39mm弾を撃ち出すAKMは、AK-47アサルトライフルの改良型である。AK-47を始祖とするAKシリーズは、発展途上国の軍隊と過激派が同じ武器を使うほど、世界で最も流通をするアサルトライフルである。それぞれが使う銃器の差による音の違い以外にも、過激派が遠くから撃ってくるアサルトライフルの弾の飛来する音とシールズ隊員たちが近くで撃つ音の強弱の違いなども気にしていただけたらと思う。

Q7.装備・衣装について
迷彩服
メンドーサとシールズ隊員が特殊部隊である事を隠すために着る、グレー系ピクセル迷彩柄の戦闘服は、アメリカ陸軍が2005年4月から2019年9月30日まで採用していたUCP(Universal Camouflage Pattern)である。
海兵隊員たちが着るベージュ系ピクセル迷彩柄は、アメリカ政府が特許をもつMARPAT (Marine pattern)というアメリカ海兵隊が採用した迷彩で、2003年頃から使用が開始され、現在も使われている迷彩である。
イラク陸軍兵士が着ている戦闘服DBDU (Desert Battle Dress Uniform)は、通称『チョコチップ』又は『6カラーデザートカモ』と呼ばれる1980年代初頭から1990年代初頭までアメリカ軍に採用されていた砂漠迷彩柄だ。
レイのバックパック
マンパック無線機を収納したリュック、ケルティのMAP3500は、シールズの2000年装備で使うバックパックとして有名だ。
ヘルメット
レイのヘルメットについているナイトビジョンマウントは、ノロトスユニバーサルシュラウドという90年後半から2000年前半に使用されたもので、そのほかの隊員は、オプスコアのVASシュラウドというナイトビジョンマウントである。2005年に設立したオプスコア社の製品で2008~9年に採用された製品である。
ウエポンライト
エリック中尉のM4についているライトは、SureFire M952Vのようで最近のモデルと思われる。

Q8:非常にレアな戦車が登場。その種類は――?
2006年のラマディの戦いで使用された歩兵戦闘車、歩兵の輸送と火力支援を両立する装甲車は、M2ブラッドレー歩兵戦闘車だった。今回の撮影では代用車両として、冷戦末期の西ドイツでイギリス軍が使用したFV432/30という装甲兵員輸送車が使用され、FV432にFV721の砲塔を載せる改修型で、その生産数約13両という比較的マイナーなモデルだ。
イギリスのアルマージェドン社という映画『フューリー』を含めた映画やドキュメンタリー作品に出てくる戦車を撮影に貸し出す会社が用意したそうで、これをブラッドレーに似せるために、扉部分等をカスタマイズしている。
『ウォーフェア 戦地最前線』は絶賛全国公開中!
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