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アレックス・ガーランド監督 インタビュー【前編】

アレックス・ガーランド監督 インタビュー【前編】

1月16日公開『ウォーフェア 戦地最前線』より、アレックス・ガーランド監督に映画ライターのISO氏がインタビューを実施。
前後編に分けてその模様をお伝えします。
 

——『ウォーフェア』の出発点は、レイ・メンドーサさんが『シビル・ウォー』に軍事アドバイザーとして参加したことですよね。どのように『シビル・ウォー』が本作の製作に繋がったのか教えてもらえますか?

アレックス・ガーランド:本作を製作した理由は大きく2つあります。ひとつは単純にレイのことが好きだったから。彼とは気が合ったんです。撮影現場には大きく分けて2種類の人間がいるんです。仕事を任せてもまったく期待に応えてくれない——半分しか終わらせなかったり、全面的に間違えていたりする——タイプと、仕事を任せると期待値の3倍の出来で応えてくれるタイプです。レイは完全に後者で、驚くほどに優秀で効率的な働き者だった。現場にいるだけで心強い仕事のパートナーであり、一緒にいるととても楽しい人物でもありました。それがまず大きな理由です。

LAプレミアより

もうひとつは、『シビル・ウォー』で彼が生み出したものが見事だったから。彼はアクションシーンの兵士役に、本物の元兵士たちを起用したのです。西部勢力が大統領を殺すためホワイトハウスを突き進み、オーバルオフィス(大統領執務室)へ向かう終盤のシーンがありますが、そこに登場する兵士の多くは元ネイビー・シールズや元海兵隊員でした。私はレイと元軍人たちがコミュニケーションを取る様子や、彼らの動き——どう武器を扱い、どう廊下を進み、どう部屋に入るかなど——を観察していました。その時に「これは今までの映画で観たことのない何かだ」と感じたんです。その核心にあるのは「時間」でした。映画は編集で時間が圧縮されていくのが常です。だから映画における事象は現実より遥かに早く進む。たとえば誰かがお茶を淹れる場面では、やかんが沸くのを映像は待ったりはしない。カットが入ることで、2分ではなく7秒で沸騰するんです。

しかし『シビル・ウォー』の撮影時に兵士がリアルタイムで見せた動きを見ていると、戦闘の大半が沈黙や視線の交わし合い、あるいは小さな合図で構成され、それが後の爆発的な動きに繋がっていた。それに気付いたとき、とても興味を唆られたんです。そこで『シビル・ウォー』の編集作業中に、レイに「戦争をありのまま描く戦争映画をつくってみないか」と提案しました。音楽も、時間の圧縮も一切使わない。誰かが2分間何も言わず座っているなら、2分かけてその通りに映す。路上の死体を引っ張るのに4分掛かるなら、映画でも4分かける。映画の中で起こるすべてはリアルタイムで、現実に基づいてつくり出す。創作は一切入れず、映画を現実から乖離させる数多くの要素や手法を可能な限り排除する。たとえば映画における銃声は低音を足して格好良く演出したり、ノイズにならないよう実際より音を下げたりしますが、現実では耳の近くで発報すると鼓膜が傷つくような衝撃を感じるんです。そういう本物の感覚を追求して、映画的なごまかしを徹底的に排除した「誠実な戦場の映画」をつくろうと私は提案したんです。

 

——本作最大の特徴は、本当に戦闘地域にいるかのような没入感を観客に与えることだと思います。その感覚はどのように追求したのか教えてください。新たな技術や機材を使ったのでしょうか?

アレックス・ガーランド:いいえ。我々が使ったのは「人間の記憶」だけでした。この映画における挑戦とは、撮影技術やセット制作、爆発の再現や美術などではなく、「真実を如何にして追求するか」ということ。では真実とは何か。たとえば同じ出来事を2人の兵士が記憶していても、それは微妙に異なっているんです。戦闘における記憶はさらにそれが顕著でした。というのも彼らは戦闘で心の傷を負ったり、脳震盪を起こしたり、恐怖に震えていたり、負傷していたり、あるいは必死で負傷者を助けたりしているから。彼らの記憶はかなり断片的で夢の出来事のようでした。どの記憶が信頼でき、どれが不完全で、どれが間違っているのか。そしてどう信頼できる記憶を選び、組み立てていくのか。最大の難関は技術的なものではなく、そういう「記憶の頼り方」でした。実のところカメラは『シビル・ウォー』と同じものを使っていますし、スタッフも同じメンバーが大多数です。以前に仕事をした俳優もいましたし、馴染み深い要素の多い現場でした。なので本当に難しかったのは、兵士たちの頭に入り込み、「どう感じたのか」を正確に再現することだったんです。

——兵士の頭に入り込み、その記憶を再現する脚本を執筆したと。ただ記憶というものは実に流動的ですよね。撮影中、現実を再現する中で新たに兵士の記憶が思い出されることもあったと思うのですが、それを物語に反映することもあったのですか?

アレックス・ガーランド:ありましたね。当事者である元兵士の多くがセットを訪れ、撮影を見学したんです。血まみれで床に倒れ、足がボロボロになり悲鳴をあげる俳優のすぐ側で、そのモデルとなった人物が車椅子に座って見ているという状況もありました。元兵士たちは見ているだけでなく、俳優たちとコミュニケーションも取っていました。たとえば映画の最後には顔をぼかした人物が家から道路に出て発報しながら進み、それを俳優が追うメイキング映像がありますが、あれは実際にその行動をとった本人なんです。彼は「こんなふうに角を曲がって撃った」「こうやって路上へと移動した」と実演して、俳優はそれを基に演技していました。本人がセットを訪れたからこそ、そのアクションを完璧に再現できたんです。

また私は現場に居合わせたイラク人たちに話を聞いたのですが、それがネイビーシールズたちの証言と食い違うこともありました。イラク人は階段の上には壁があったと語ったんです。彼らは戦闘後の血痕や銃痕が残った家屋を撮った写真を持っていて、そこには破壊された階段の壁も写っていました。ただそれを元兵士たちに聞くと「壁はなかった」と主張した。私は理解できず、とても困惑しました。ただ撮影の前日、それまで話を聞けていなかった元兵士の一人とようやく接触できたんです。すると彼は「階段の上に壁があって、我々がハンマーで壊した」と語ってくれました。それで急遽セットに本物の壁をつくり、俳優にハンマーを渡して「実際の兵士はその壁をぶち破った。だからそうしてほしい」と伝えました。それで実際に壁を壊すシーンを再現したんです。そのように当事者の記憶を基にした有機的なプロセスで、映画全体が製作されていきました。

あなたの言う通り、ときに現場で記憶が蘇ることもありました。「血まみれの仲間が悲鳴をあげる建物にいた」という記憶に蓋をしていた元兵士もいましたが、血や装備や音が再現されたセットに足を踏み入れると、突然何年も忘れていた細かな記憶を取り戻したんです。私たちはその蘇った記憶もそのまま映画に反映していきました。

——無数の問題が同時多発的に起こり、無数の音や声が同時に重なるカオスな音作りがなされていたと思います。それも実際に兵士が耳にした音を再現したと思うのですが、音を本物に近づけるためにどのようなことをしたのでしょうか?

アレックス・ガーランド:その点については共同監督のレイが大きな役割を果たしてくれました。彼はとても聡明で17年間ネイビー・シールズに所属していたこともあり、細部まで明確に説明してくれるんです。「この音はもっと大きい」「ここの騒音の中には乾いた銃声や微かな雑音がある」というように。彼が特に気にかけていたことの一つが、銃声が聞こえる方向の違いです。自分が撃たれたときと、自分が撃ち返す場合では音も大きく異なりますよね。彼は発射音や弾丸が近くをかすめるときの音で、銃との距離をどう判断するのかを教えてくれました。私たちはその意見をすべて取り入れつつ、音響デザイナーとレイの間で何度も作業を重ねることで正確さを追求していきました。

TEXT by ISO

(1月15日公開のインタビュー【後編】に続きます)