「アレックス・ガーランド監督 インタビュー【後編】
こちらのインタビューは、1月16日公開『ウォーフェア 戦地最前線』にて、アレックス・ガーランド監督へ行ったインタビューの【後編】になります。
ぜひ【前編】をご覧になってからお読みください。
——本作は特定の主張をするのではなく、あくまで中立的な立場から起きたことを再現することに終始していますね。そのスタンスを取ることを重視した理由について教えてください。
アレックス・ガーランド:説明するのが難しいのですが…ひとつ言えるのは、これまで特定の主張を補強するための「批評的な戦争映画」が多くつくられてきたということ。私が伝えたいのは、戦争が良いか悪いかという話ではない。戦争が悪」なのは自明です。ウクライナやガザで起きていることを想像すれば明らかでしょう。まともに考えれば戦争が善のはずがない。他国に侵略をされたときのように、自衛として正当化される事例はありますが、だからといって「良いこと」にはなり得ません。
私は観客が知性を備えた大人であると信用しています。私が結論を押し付けなくとも、自らそういった考えを巡らせてくれるはず。これは妥当な想定だと思いますが、世の中にはそれとは対照的な想定でつくられた映画も少なくありません。むしろ多くの戦争映画は、何らかの意図で戦争を歪めている。戦闘描写も歪められていることがほとんどで、体験者の個人的視点から忠実に描かれた作品は極めて稀です。それは映画が私のような戦争を体験していない監督によってつくられるからでしょう。だからこそ実際に戦闘に巻き込まれた兵士の口から、戦争の実像を語ってもらうことに興味を惹かれたのです。当事者と話し、語る言葉を聞き、彼らに戦争について説明してもらう。そうでなければ、戦争についての我々の見解は信用できない情報源から得たものになってしまいます。私は兵士だったことはないし、これからもならないでしょう。だから私ができるのは戦争における兵士や民間人の声に耳を傾け、受け取ったものをそのまま伝えられるよう努めるだけ。そしてあとは観客の知性に委ねて、彼ら自身に結論を出してもらうのです。

——『シビル・ウォー』では戦争をジャーナリストが記憶していく姿を描き、本作では監督自身がジャーナリスト的な立場から戦争を映画として記録していますね。この「戦争を記憶すること」の意義をどのように考えているのでしょうか?
アレックス・ガーランド:戦争は人間が行うもっとも深刻な行為のひとつです。1970年に生まれた私は、世界中で常に何かしらの戦争が起きているという感覚を抱きながら成長しました。ただ同時に「世界大戦はどんな犠牲を払ってでも避けなければならない」という重要な教訓を、世界は過去から学んだという認識もありました。それは決して忘れられるはずがないものだった。しかし1970年以降、私が生きてきた55年の間に、その重要な教訓は100%きれいに忘れ去られたのだとはっきりわかります。たとえば現在のアメリカ大統領は、自身が語ったり言及していることの現実性をまったく理解していない。彼は「グリーンランドを米国の一部にするため軍事力を行使するかもしなない」などと何気なく口にしてしまう。両親が第二次世界大戦を経験した私や同世代の人間からすると見過ごせない異様な発想です。
だからこそレイのように戦争を知り、自分の話していることをはっきり理解している人の話が聞きたい。軍に何が起きているかを知れば、民間人に何が起きているかもわかります。そして世界で何が変わりつつあるのかもわかる。それは人々が互いに語り合うような突飛なおとぎ話とは対照的な真実の物語です。危険は確実に増している。だからこそ、これから起こり得る未来を考えれば、誠実ではない戦争映画をつくることは無責任だと私は思います。

——『プラトーン』や『ブラックホーク・ダウン』といった優れた戦争映画は数々ありますが、たしかに「真実味」という点で本作はどれとも違っていますね。ただ本作を観ながら唯一思い出した戦争映画は『炎628』でした。もちろん視点は異なりますが。
アレックス・ガーランド:『炎628』は戦争映画の中で5本の指に入る傑作だと思います。そしてその作品は『ウォーフェア』にも影響を与えています。というのも『炎628』の制作者や俳優たち——特に年配の俳優です——は、映画で描かれた出来事を実際に体験し、記憶していた人々でした。そしてそれが民間人の視点から描かれている。ある意味で幻想的な瞬間もある映画ですが、凄まじく誠実につくられ、驚くほどに本物の質感を宿し、見事なまでに人々に真実を伝えている作品です。『ブラックホーク・ダウン』も素晴らしい映画ですが、『炎628』が持つような誠実さには欠けていると思います。また『ウォーフェア』は、素晴らしいモノクロの戦争映画である『突撃』(1957)にも大きな影響を受けました。スタンリー・キューブリック監督の初期作品で、カース・ダグラスが出演しているのですが、この作品も真実味を宿していると思います。
しかし大抵の映画は、戦争を歪めて楽しめるように描いています。なぜなら本来の戦争は楽しいものではないから。それも理解はできるんです。クールな音楽が欲しいとか、格好良い俳優にクールな演技をしてもらいたいという気持ちはね。それは正当な要求であり、批判するつもりもありません。ただ戦争を美化して描き、半ば賞賛するようなものであれば話は別です。だからこそ、バランスを取るためにも現実を直視してもらう映画も必要だと私は思います。

——世界戦争の足音も日増しに大きくなっている今の社会で、本作を観た観客がどのような議論をすることを期待しますか?
アレックス・ガーランド:それは私が決めることではありません。ただ戦争を経験した兵士たちに、自身の体験を語る機会を与えたかっただけなので。私は人間を深く信用しています。冷笑するつもりなどまったくない。真実を語る人々の声が届けば、人々は自分の価値観にそれを取り入れてくれることでしょう。人々はこの映画で新たな情報を得るのです。
映画が戦争を経験した退役軍人や民間人の声をこれほどまでに無視してきたことをとても奇妙に感じます。ドキュメンタリーは存在するものの、映画は実際にその場にいた人々への関心が薄い傾向にある。それゆえに私は映画に対しては少し懐疑的ではありますが、観客に対してはそうではありません。だからレイの物語を観客に届けること自体に意義があると思います。私自身が興味深いと感じたように、彼らにも感じてほしいですね。

text by ISO